房総の魚たち・陸っぱり釣り師の備忘録

房総の陸っぱりを中心とした釣行と、釣魚料理の記録。釣りのジャンルは、浮きフカセ、シーバス、陸から少し離れたボート釣りなど。これまで釣った房総の魚たちを紹介する「房総釣魚図鑑」や、エッセイなどもアップしていきます。

馴染みの店④ 新展開

ほぼ1か月ぶりに馴染みの居酒屋に顔を出すと、カウンターの中には細身の若い娘が立っていた。予想しない展開に、いささか面食らいつつカウンター席につくと、大将から「アルバイトのアサちゃん。先週から来てもらってる」と紹介された。真っ黒なストレートヘアで黒目勝ち、メイクをしているから良く分からないが二十歳前後だろう。とりあえず何か言わねばと「はじめまして。飲食系のバイトは、結構やってるの?」と訊いてみる。「私、17(歳)で、バイト自体が初めてです」と、これまた予想しない答えに、私の視線は泳ぐ。まさか、高校生とは。「居酒屋のバイトについて、ご両親は、な、何と?」と訊くと、彼女は「応援してくれてます」と屈託なく答えた。

この日の酒は、浦霞の新酒。口にふくむと、さわやかな香気が広がり、今年も新酒の季節が来たことを実感する。「ああ、旨いなぁ」。刺身は、マグロの中落ち、赤貝、クロムツの炙り。大将に、中落ちは骨から削りとるのかと訊くと、笑われた。「いやいや、市場で中落ちとして売ってるんです。本マグロだって言ってたから旨いでしょう」。しっかりと、赤身の味がしつつ、程よく脂乗っている。確かに旨い。

話は自然とアサちゃんのことになる。バイトを募集したところ、30名くらいの応募があり、アサちゃんと、もう一人、大学生を採用したという。

アサちゃん:「それ、初めて知りました」
大将:「シフトだから、会うことはないよ。あなたの来ない日に来てもらっている」
私:「大きな予約が入れば、二人に来てもらうこともあるんじゃないの」
そんな会話をしていると、大将の携帯にメールが来た。
大将:「お客さんからメールだ。今日は女子高生の子いるか、って」
アサちゃん:「いないって言ってください!」

しばらくして、客が一人入ってきて、カウンターに座った。今日は給料日後の金曜日だから、徐々に混むかもしれない。ふと客の方を見ると、お互いに「あっ」と声を上げた。先々月だったか、別の居酒屋で意気投合(?)した若者だった。

大将:「お知り合いですか」
私:「以前、線路の向こうの居酒屋で会ったんですよ」
若者:「その時に、このお店のことをおっしゃっていたので、一人で来てみました」
私:「ほら、大将、店の宣伝に貢献してるでしょう?(←「別の店」に行ったことがやや後ろめたい私)」
大将:「ありがとうございます」

この日は、いつもより賑やかな夜になった。客がもう一人来たところで、私はひっそりと席を立った。帰り道、アルバイトの子目当ての客が増えるかもしれないなぁ、と思った。混むのはあまり歓迎しないが、さりとて店が潰れるのはもっと困る。思えば、大将と差し向えで飲む酒は旨かった。しかし、どう考えても店としてあるべき姿ではない。分かってはいたのだ。

商売繁盛、結構、結構!
店を覗いて混んでいたら、うんうんと頷いて、別の店に行くさ。

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