房総の魚たち・陸っぱり釣り師の備忘録

房総の陸っぱりを中心とした釣行と、釣魚料理の記録。釣りのジャンルは、浮きフカセ、シーバス、陸から少し離れたボート釣りなど。これまで釣った房総の魚たちを紹介する「房総釣魚図鑑」や、エッセイなどもアップしていきます。

馴染みの店② 常連客

「雨ばかりでね、全然だめだ。暇でしょうがない」と、おしぼりを差し出す大将。客は私一人だ。実のところ、今日は入店する予定ではなかった。大将に釣った魚を天ぷらにしてもらおうという一大イベントが翌週の土曜日に控えていたので、来週の中頃、顔出しようと考えていた。しかし、今日、無性に行きたくなってしまった。(来週のあいさつを、今日に繰り上げるか)と適当な言い訳を考え、(ま、空いていれば、ね)。ガラス越しに店を覗くと、果たして店はガラガラである。こうなると、もう抗えない。気づけば暖簾をくぐっていた。


 山形の地酒“三十六人衆”を頼む。お通しは、煮しめと茶碗蒸し。
「台風が来ると、魚は入りづらくなるの?」
「う~ん、そうでもない。今は流通がすごいから」


 刺し盛りは、マイワシ、イシガレイ、メバチとキハダ。小さいながらイシガレイの縁側は脂が乗っていて、噛みしめると旨みが広がった。

私 :「仕入れは、千葉の中央市場?」
大将:「そう。毎日じゃないけどね」
私 :「あそこは、第二、第四土曜日、一般公開するんだよね。前に500gくらいあるカワハギを買ったよ。肝が一杯入っていた」
大将:「よくやるねぇ」
私 :「寿司屋に憧れてたから」
大将:「ああ、分かる。板前にいるタイプだもの」
私 :「大将は、最初から板前になりたかったんスか?」
大将「小学校4年生の頃からだね・・・。」


 それから、大将の身の上話がつまみになった。漫画「バー・レモンハート」に、常連客のまっちゃんが、マスターの身の上話を聞く回がある。普段、自分のことはあまり話さないマスターは「こんな雨の日は、そんな話しもいいかもしれない」と、自分がバーテンダーになるまでの経緯を話し始める。まさに、その場面の再現だった。

「これはサービス」と、銘柄は忘れたが日本酒を一杯ごちそうになり、都合4杯、3合弱の日本酒を、最後は酒盗クリームチーズのカナッペをつまみにじっくり飲んだ。

 この日の客は最後まで私一人だった。